イギリスBBCと共同で描く日本のダイナミックな自然 - 「ワイルドジャパン」

「当たり前と思っていた日本の自然を見つめ直すと、人と生きものが長い時間をかけて築き上げたいい関係があったり、スゴイことが行われていたりと、いろいろと面白いことが見えてきました」。国際共同制作「ワイルドジャパン」の見どころを、武プロデューサーがご紹介します。


“Japan remains wild, mysterious and magical.”
「ワイルドジャパン」はNHKとNEP、そしてBBC(英国放送協会)が共同で日本の自然をダイナミックに描く、3本シリーズの自然番組です。
番組の企画はBBCからの呼びかけで始まりました。なぜBBCが日本の自然を取り上げたかったのか、それを表していたのが、次の一言でした。

“Japan remains wild, mysterious and magical.” (日本にはまだ野生と神秘と不思議がある)。

海外の人が日本に抱くイメージというと、「大都会があるけれども、狭い国土に人がひしめいている」というものが多く、そもそも自然があるのかどうかなど思いも及ばないようです。けれども、日本には流氷の海から亜熱帯のサンゴ礁まで実に多様な自然があって、地球の自然環境の大部分が凝縮されているということを知ると大変驚きます。
野生動物の多さにも驚きます。森にはツキノワグマやニホンザル、ニホンカモシカ、イノシシなどがいて、海辺には巨大なワシ、都会ではタヌキが現れます。日本には、世界がうらやむほど豊かで多様な自然が満ちあふれているのです。

番組の取材を進めていくと、私たち自身も当たり前と思っていた日本の自然を見つめ直し、新たに発見することが数多くありました。人と生きものが長い時間をかけて築き上げたいい関係があったり、スゴイことが行われていたりと、いろいろと面白いことが見えてきたのです。

たとえば、知床の海岸では秋になるとたくさんのヒグマがサケを求めて現れます。でもそのすぐそばでは漁師が平然と仕事をします。生態系の頂点に立つ野生動物と人が共存しているのは、世界でもここだけです。漁師が30年以上もかけて築き上げてきた、奇跡的な関係です。

船の上で作業する漁師のそばには、なんとヒグマが!

船の上で作業する漁師のそばには、なんとヒグマが!

奈良にも驚きのシーンがあります。奈良と言えば、シカ。奈良公園を悠然と歩く姿はおなじみですね。
実はこの野生のシカたちは山からやってきて、行儀よくお辞儀をしてからおせんべいをもらうのです。シカたちの「日本的」とも言えるユニークな振る舞いと、野生動物と間近にふれあえるという点から、海外の人たちにも大人気です。一見、不思議に見えるこうしたシカの行動も、人々が奈良のシカを神の使いとして大切に敬ってきたという長い歴史があるからなのです。

おじぎをする奈良のシカ

おじぎをする奈良のシカ

また沖縄の久高島(くだかじま)では、神に仕えてきた女性が猛毒のウミヘビを素手で捕まえるという伝統的な漁が今も行われています。女性たちは真っ暗な洞窟でじっと耳を澄まし、ウミヘビが泳ぐかすかな音や、岩をはう音を聞き取り、海から上がってきたウミヘビを素手で一気につかみます。今回、こうした貴重な漁の場面も撮影することが出来ました。

四季折々、日本の自然が作り出す美しい情景にも驚かされます。赤や黄色、オレンジ…。山を染める紅葉の色合いは繊細で、ひとことで「紅葉」と言い切れないほど実にたくさんの色があふれています。
一方、山肌に樹氷の白い柱がどこまでも続く光景は、まさに圧巻の風景……。
こうした自然は実は日本ならではの特徴なのです。今回、四季折々の美しい情景と生きものたちの躍動を、高精細に描写することが可能な4Kカメラで撮影しました。

紅葉の山肌はたくさんの色で染められている

紅葉の山肌はたくさんの色で染められている

どこまでも続く樹氷(蔵王)

どこまでも続く樹氷(蔵王)

日英合同クルーだから撮影できた情感あふれる日本
国際共同制作の番組はロケの作法の違いなどから、撮影を分担して行うことが普通です。けれども今回はNHKとNEP、BBCのスタッフが合同でクルーを結成し、全国40か所を撮影しました。

日本の自然は四季の移ろいが早いため、常に先を読んだ行動が求められます。そうした点に精通した日本人スタッフと、独自の視点で捉えるイギリス人スタッフが一つのクルーとして力を合わせたことで、日本の自然を独特の美しい映像で捉えることができました。

撮影は、全編、高精細の4Kカメラで行いました。BBCはフィルム撮影時代からの技術を継承してか、4Kカメラのフレームレートをこまめに変更して収録スピードを変える「オフスピード撮影」を多用します。例えば、川でサケを追うヒグマの映像では、あえて少しスローモーションで撮影し、豪快な狩りを印象的なシーンに仕上げました。
番組ではところどころで、こうした情感あるスロー映像を使っています。BBCのカメラマンはもちろん、日本クルーもこの手法を駆使した撮影を試みました。

情感あふれる映像美で描くと、“見慣れた”と思っている風景もとても新鮮なものに様変わりします。日本の自然が見せる新たな魅力を、ぜひ番組でお楽しみいただければと思います。

自然の声が聞こえる ナビゲーターは尾野真千子さん

尾野さん

番組では女優の尾野真千子さんにナビゲーターをお願いしました。尾野さんは奈良県の旧西吉野村出身で、子どもの頃から山遊びをして自然に親しんできました。森はいわば友だちのようなものです。
番組では故郷を訪ねて森の息吹を感じながら、「山も木も川もしゃべりかけるんですよ」と語ります。また知床では森の中でエゾシカと出会います。沖縄では「幻の鳥」とも言われたヤンバルクイナを探すなど、各地を旅してその魅力を伝えてくれます。

日本の素晴らしい自然を珠玉の映像で描く「ワイルドジャパン」。
ぜひご覧いただき、夏の夜を心地よく過ごしていただけたらと思います。

(制作本部 自然科学番組 エグゼクティブ・プロデューサー 武友則)

「ワイルドジャパン」 放送予定
NHK BSプレミアム
「第1集 本州 ~荒ぶる自然と響きあう命~」  7月27日(月) 夜8:00~8:59
「第2集 北海道 ~挑み続ける生きものたち~」  8月3日(月) 夜8:00~8:59
「第3集 南西諸島 ~神秘の島々に命かがやく~」  8月10日(月) 夜8:00~8:59
番組ホームページ