ミュージカル「DNA-SHARAKU」と歩んだ2年

ミュージカル「DNA-SHARAKU」より

1月から2月にかけ、東京・大阪・福岡で全31公演を終えたミュージカル「DNA-SHARAKU」は、当社NEPの創立30周年企画の1つでした。大規模なミュージカルの立ち上げは当社としても初めて、準備は2年にわたりました。プロデューサーとしてこの作品に挑戦した当社のエンターテインメント番組の井上部長は、全公演を終えた今、「何故我々はエンターテインメントを作り続けるのか?」と改めて自問するといいます。


NEP創立30周年記念事業の社内企画募集が締め切りとなったのは、2013年の2月末日。その後、5月には124本の提案の中から「中間報告」として6つの柱からなる記念事業案が取りまとめられ、その中にミュージカル「DNA-SHARAKU」の原提案となる「NEP VISUAL PROJECT」も含まれていた。この企画は音楽・ダンスとホログラムやプロジェクションマッピングなどの最新映像技術を共演させるステージショーとして立案されていた。同年8月には最初の企画書を作成している。この段階では、実行するかどうかは確定しておらず、少人数での企画会を定期的に重ねていた。

また当初は、無料でクライアントや関係者のみを招待して開催する1回限りのイベントとして計画されていた。
しかし2014年の2月までには、新規事業への挑戦として、オリジナルミュージカルの形で制作する方針に変更された。大きなテーマは「クールジャパンの源流を探る」ということで一致。原案を「天地明察」などの作品で知られる作家、冲方丁氏に依頼することとなった。

冲方氏との顔合わせは、3月3日。実は既にこの時の打ち合わせで、作家冲方氏の縦横無尽な発想力により、「日本人には創造する遺伝子がある」「謎の絵師 写楽が鍵となる」「芸術が禁止された世界から始まる物語」など、最終的に物語の柱となった重要なキーワードがいくつも生まれていた。
その月の後半には、ミュージカル公演を実施することが事実上決定された。以降具体的な準備が進んだ。
制作には、NEP内スタッフに加えて、ミュージカルの制作に精通している「株式会社クオーレ」「株式会社プエルタ・デル・ソル」からプロデューサーが1名ずつ参加。
この2名が、舞台制作スタッフの選定や、予算、スケジュールなどに関して、ミュージカル製作の専門家として様々に助言を与えてくれた。

演出は新進気鋭の演出家、小林香氏に依頼することを4月中に決定。また、作曲を井上ヨシマサ氏、美術を松井るみ氏に依頼することを決定するなど、スタッフ選定も進めていた。また脚本は演出の小林氏が担当することとなった。会場の新国立劇場使用は5月に確定していた。

12月には東京のチケット販売、地方公演の運営を株式会社サンライズプロモーションに依頼することを決定した。
キャスティングについては、2014年の初頭から動き始めていたが2015年6月までには、主演のナオト・インティライミ、小関裕太の出演が確定。2015年9月までには全ての出演者が確定した。

ナオト・インティライミさん(柊健二 役)

ナオト・インティライミさん(柊健二 役)

小関裕太さん(結城連 役)

小関裕太さん(結城連 役)

以降2015年、11月に稽古が開始されるまでの期間は、美術・映像、音楽、脚本など、それぞれのパートで非常に綿密な打ち合わせが繰り返された。
また2015年8月5日に第一報を発表以降は、NEP広報及び外部宣伝広告会社との連携で広報展開も紙媒体を中心に積極的に展開していった。
企画からは3年越しで実施をむかえたが、ミュージカル界としては数年ぶりの大規模なオリジナルミュージカルということで、関わった全てのスタッフが費やした時間は実に膨大なものであった。結果的には、想定の集客には及ばなかったものの、著名な劇評家からも賛辞を受け、関係者、一般の観客問わず観劇した方々からは概ね好評意見をいただいた。
ミュージカル界では新参者のNEPが、一定の話題となる作品を製作したことで、その存在感を大いに高める結果となり、新ジャンルのソフト開発としては成功裏に終わったといえるだろう。特にダイナミックな映像演出と、日本を舞台にしたという設定の珍しさ、異ジャンルが共演した新鮮な出演者の顔ぶれなど、日本のミュージカル界に新風を吹き込んだ功績は高く評価された。

物語は謎の絵師写楽を巡るSF歴史スペクタクル。2016年の現在、2045年、今から100年後の2116年、そして写楽が世に出る前の年1793年を舞台に繰り広げられた

物語は謎の絵師写楽を巡るSF歴史スペクタクル。2016年の現在、2045年、今から100年後の2116年、そして写楽が世に出る前の年1793年を舞台に繰り広げられた

「映像と舞台の融合」は、このミュージカルの大きなテーマのひとつ

「映像と舞台の融合」は、このミュージカルの大きなテーマのひとつ

しかし、脚本、音楽、美術、映像、衣装、など全てをゼロから立ち上げ、一般の方々に有料で公開するエンターテインメントを作り上げるという過程がどれほどのことなのか、その作業量と内容を事前に理解出来ていなかったことで、社内の要員配置が十分に出来無かったことは大きな失敗だったと考えている。今後こうした事業を構える際には、社員の配置を慎重に検討し、遺漏無く業務に向き合えるよう考え、整えるべきであると強く思う。エンターテインメント作品を生み出す背景には、膨大な時間、現場で制作に向き合う人々の激しい葛藤と努力、そして忍耐があるのだ、ということを改めて思い知った。そしてまた、クリエーターと呼ばれる人達だけでは決して成立しないということも。

「DNA-SHARAKU」と歩んだ2年を越える月日で、そんな当たり前のことを改めて学んだ。そして全てが終わった今「何故我々はエンターテインメントを作り続けるのか?」という原初的な問答を自分自身に向け、改めて突きつけている。この仕事をする限り、永遠にわからないことなのだろう、という気も何故かますます強くなるのだが。

(制作本部 エンターテインメント番組 部長 井上啓輔)


ミュージカル「DNA-SHARAKU」

東京公演:2016年1月10日(日)~24日(日) 新国立劇場 中劇場
大阪公演:2016年1月28日(木)~31日(日) シアターBRAVA!
福岡公演:2016年2月6日(土)~7日(日) キャナルシティ劇場

放送予定:
2月22日(月) 午前0:00~2:40 ※日曜深夜 NHK BSプレミアム