NHKとアルス・エレクトロニカ・センターとの共同で、8Kテクノロジーを使った、実験的な映像演出を試みた立花チーフ・プロデューサーの報告(後編)です。後編では今回の実験を行った、アルス・エレクトロニカ・フェスティバルの内容を中心にお伝えします。
関連記事:時空を超える映像の未来を実験する―アルス・エレクトロニカ・フェスティバル “8K Vision, toward 2020”からの報告(前編)
【アルス・エレクトロニカ・フェスティバルとは?】
アルス・エレクトロニカ・フェスティバルは30年以上の歴史があるイベントで、毎年9月にオーストリア・リンツ市の中心部で開催されています。デジタル・テクノロジーを活用したさまざまなジャンルのアート作品が世界中から集まりますが、今年のテーマは「自動運転車やIoTの次に私たちの未来に何があるのかを問おう」というものでした。そのために、アートと科学が力を合わせるべきだというメッセージが打ち出されました。
フェスティバルのメイン会場は、かつて中央郵便局が集積・配送拠点に使っていた庁舎で、POST CITY(都市の未来)と名付けられています。郵便の代わりにアイデアとパッションを集積・拡散しようというわけです。今年の観客は5日間で8万5千人、50カ国以上から集まりました。
メイン会場では時代を反映した作品が多く展示されます。今回もっとも力が入っていたのは、シリア難民を主役にした空間演出でした。ここリンツという街は、オーストリアの交通の要衝で、2015年秋には、シリアを脱出した難民が列車や徒歩で、ウィーンからリンツを経由してドイツを目指しました。一部の人々はこの建物の中で寝泊まりしたのです。
【社会への問いかけ】
今回のフェスティバルでは、840名のアーティストやエンジニア、クリエーター、デザイナー、科学者が作品を持ち寄りました。一同に集まることがアイデアの交換を促し、互いを高め合い、次の作品を生んでいく。フェスティバルはそのサイクルの核になっています。
今年の特徴のひとつとして「ファッション×テクノロジー」分野の作品が多くありました。私たちの身体につねに触れている洋服にテクノロジーを組み込み、Humanity(人間性)を拡張していこうとする試みが多く持ち寄られました。
実は、プロジェクション・マッピングやドローン、VRなどは、現在のように話題になるずっと以前から、アルス・エレクトロニカ・フェスティバルの場で試されてきました。当時はテクノロジーが未成熟で、作品の完成度は現在とは比べ物にならなかったそうですが、そんな不自由な環境と格闘しながらも、未来を模索してきたアーティストがいたからこそ今があります。
今年展示されたこうした作品も、やがて昇華され、私たちの生活のなかへ溶け込んでいくのかもしれません。
アルス・エレクトロニカ・センター
http://www.aec.at/about/jp/
DeepSpace8K(英語)
http://www.aec.at/center/en/ausstellungen/deep-space/
NHKの映像実験 “8K Vision toward 2020”(英語) ※今回のフェスティバル期間中だけの開催
http://www.aec.at/radicalatoms/en/deep-space-8k-nhk/
【報告】
NHKエンタープライズ デジタル・映像イノベーション チーフ・プロデューサー 立花 達史
【写真提供】
落合淳・渡辺琴美・川崎麻り子・森山朋絵