東信さんが描く無限の花宇宙

羽田空港国際線旅客ターミナルにプラネタリウムがあるのをご存じですか? その映像をNEPが手がけています。12月お披露目の新作は、フラワーアーティストの東信(あずま まこと)さんの植物のアレンジメントがモチーフ。その制作風景は、目を見張るものでした。川崎プロデューサーのリポートです。


きっかけは一枚の写真でした。

EXOBIOTANICA - Botanical space flight -

羽田空港国際線旅客ターミナルには、知る人ぞ知るプラネタリウムがあり、NEPはそのドーム映像を5年ほど前から毎年手がけています。その担当を今回初めてすることになり、今までドーム映像など手がけたことのない私は、いったいどうしたものかと考えあぐねていました。ただ、昨年の作品がモノクロームでシックな映像だったので、今回自分がプロデュースするとしたら、思いっきり色彩に包まれるような映像を、と漠然と思っていました。

そんなとき目にしたのが冒頭の写真です。世界中のニュースで取り上げられ、ネイチャー誌が2014年のベストイメージの一つにも選んだというものでした。
宇宙空間に松の盆栽が浮遊しているという、なんとも奇異なイメージ。これは、決してCGなどで作り上げられたものではなく、実際に、盆栽をネバダ州ブラックロック砂漠上空3万メートル、気温マイナス50度の世界に、ヘリウムガスを充填したバルーンを使って打ち上げて撮影されたものです。本来大地に根を張っているはずの植物が、重力から離れて、「地球外生命体」へと進化を遂げた……と説明のついた不思議な写真でした。

極限状態に置かれた盆栽!? なんという美しき非常識!!
その仕掛け人は、東信さん。世界をまたにかけ活動するフラワーアーティストで、近年では大海原に巨大彫刻のような生花のオブジェを出現させるなど、自然界では存在し得ないようなさまざまなシチュエーションで花を活けるプロジェクトを、精力的に展開しています。

冒頭の写真に心をわしづかみにされた私が、さらに東さんの作品アーカイブを調べてみると、他のフラワーアーティストたちとは明らかに一線を画す、強烈な色使いの作品を多々発表なさっている方だと分かりました。熱帯系と思われる植物を多用した目の覚めるような色使い。そして、植物の器官の曲線や質感が醸し出すなんともセンシュアルな表現。
この東さんの鮮烈な世界観で、プラネタリウムを埋め尽くしたらどうなるだろうか? 成層圏に植物を放り上げてしまうような人なのだから、きっと花と宇宙というテーマで凄いものを作ってくれるに違いない! 妄想が膨らみました。

プラネタリウムを埋め尽くす花たち。制作の様子は続きをご覧ください

プラネタリウムを埋め尽くす花たち。制作の様子は続きをご覧ください

常識を打ち破り続けるクリエイターの東さん。きっと話しかけづらいような神経質な方なのでは……? ところが、お会いしたご本人はポンポンと会話の弾むとてもノリの良い方!(失礼) プラネタリウムのドーム映像という東さんにとっても人生初となる挑戦を快く引き受けてくださいました。

撮影は2日間にわたって4Kカメラを使って行われました。
西郡勲監督が描いた植物と宇宙、ミクロとマクロの世界を行ったり来たりする不思議な花宇宙旅行の絵コンテをもとに、東さんのスタッフ(AMKK「東信、花樹研究所」)が夜を徹して作り上げたアレンジメントの数々がスタジオに並びます。

4Kカメラで接写

4Kカメラで接写

スタッフが慎重に撮影の準備

スタッフが慎重に撮影の準備

無限の植物で埋め尽くされた極彩色のトンネル、発光したサボテンがきらめくグリーンのジオラマ、惑星を模した花の球体群、などなど……。P.I.C.S.の平賀プロデューサーのもと、美術チームが今回のために特別に作ったオリジナルの花台に活けられた生花たち。
それだけで充分見ごたえがあったのですが、撮影が始まると、その作品たちがあれよあれよとどんどん変化していったのです。設計図などない仕事。何かの衝動に駆られているかのように、東さんの指示が飛びます。度々モニターをチェックしながら、新たな植物がどんどん投入されていきます。そして現出しためくるめく強烈な色の世界。植物という生命体が集合体となってスタジオ中にうねっていました。

東信さんが次々と植物に命を吹き込んでいく

東信さんが次々と植物に命を吹き込んでいく

こちらでご紹介する写真でもその美しさは感じていただけると思いますが、ミクロの身体になって無限の花宇宙をトラベルする感覚は、やはりプラネタリウムならでは。羽田に行かれる際には、ぜひ、国際線ターミナル・スターリーカフェのプラネタリウムにお寄りください。

作品より。花たちに覆われる体験をぜひプラネタリウムで

作品より。花たちに覆われる体験をぜひプラネタリウムで

私事で恐縮ですが、植物とは最近浅からぬ縁があり、2年前からNHK BSプレミアムのドラマ「植物男子ベランダー」を制作しています。その原作者いとうせいこうさんが「人間は植物を利用したり鑑賞したりしているつもりになっているが、実は本当は植物のほうがうわてで、植物が人間を操って自身の領域を広げようとしている」というようなことをよくおっしゃいます。

今回も植物たちが東さんやプラネタリウムを通じて、人間たちに何かのメッセージを発信しようとしているのかも……しれませんね!

(グローバル事業本部 展開推進 エグゼクティブ・プロデューサー 川崎直子)

「Flower Universe -東信 花宇宙の旅-」

「Flower Universe -東信 花宇宙の旅-」

12月5日(土)から羽田空港国際線旅客ターミナル PLANETARIUM Starry Cafeで上映