伝説の怪魚、謎の大遡上をアマゾンに追う!

NHKスペシャル「大アマゾン」「誰も見たことがない大河の奥へ」をコンセプトに“地球最後の秘境”とも言われる世界最大の川・アマゾンの奥深くにカメラが分け入る。そこで見たものは……。
NHKスペシャル『大アマゾン』シリーズ第1集では、伝説とも言われる怪魚の大遡上の瞬間を捉えようと、挑みました。村田プロデューサーが報告します。


過激な挑戦―誰も見たことのないアマゾン

2016年、オリンピックが開催され、世界中から注目を集めるであろうブラジルを舞台に、「これまでやったことのないような、誰も見たことのないような、アマゾンの自然番組の決定版を作りたい」- その構想が生まれたのは5年前。そして2013年、企画が採択され、以来私たちは大アマゾンという“地球最後の秘境”を相手に、3年越しでリサーチを続けてきた。

4月から毎月1本の予定で放送される4本シリーズのNHKスペシャル「大アマゾン 最後の秘境」。アマゾンで繰り広げられる、人や自然の知られざるドラマを描こうというもので、その第1集と第3集をNHKエンタープライズ(NEP)自然科学番組部が担当した。第1集のテーマは「伝説の怪魚と謎の大遡上」。濁流の下でこれまで謎に包まれてきた怪魚達の素顔を暴くと共に、数百万匹の魚たちが一斉に大遡上するというアマゾンならではの謎の現象に迫ろうという狙いだ。しかも、高精細の4Kカメラで撮影するという、一見、無謀とも思える難関中の難関のテーマに挑戦するのである。
だが、濁流渦巻くアマゾンで、一体どうやって怪魚達の水中での生態を撮影するのか? さらに、ダム建設等の影響で、ブラジルでは殆ど見ることのできなくなった幻の現象「魚の一斉遡上」を一体、どうやって見つけるのか?  “プロジェクトX”並みの難題に挑んだのは、アマゾンに精通している岡部ディレクター、NHK潜水班のリーダー格・中西カメラマン、そしてブラジルで15年にわたって岡部や村田と自然番組を共に作ってきたプロダクション・アマゾンタッチからなる専門集団だ。

空から見た大アマゾン

空から見た大アマゾン

奇跡の透明の泉 とらえた世界初のシーン

「どこか水中撮影ができる場所がないかとリサーチしていたところ、アマゾン中流域にこれまで聞いたことがないくらい透明な水域があるという情報が入ってきたんです。その透明度は30メートルを超えると言いますから、最初は半信半疑でした。常識的に考えて、泥や浮遊物が多い川で、10メートルを超える透明度というのはほとんどないんです。しかもアマゾンですからね」(岡部)

アマゾンで出会った透明な泉

アマゾンで出会った透明な泉

泉の透明度は30メートルを超える

泉の透明度は30メートルを超える

ロケ隊を待っていたのは、驚くことに、50メートル先まで見通せるのではないかというまさに奇跡の泉だった。ここで撮影チームは、これまで謎とされてきた怪魚達の珍しい生態を次々にゲット。高精細の4Kの水中ハイスピードカメラが捉えた怪魚たちの捕食シーンは圧巻だ。それだけではない。夜、泉の一角で中西カメラマンが水中で魚たちを撮影していたときのこと。どこからともなく、一匹のデンキウナギが姿を現わしたのだ。デンキウナギは主に泥水の中に棲んでいて、透明な水域で目撃するのは極めてまれだ。さらにである。次の瞬間、なんと、水底にいた魚に襲いかかったのだ。野生のデンキウナギが電気を放電して魚を捕食するシーンはこれまで世界でも撮影されたことはない。
「スーパーショットを撮るまでに2回感電しました(苦笑)。この仕事をしていて、満足できるものが撮れることってなかなかないのですが、今回は大満足です!」とは中西カメラマンの弁。最新の4Kハイスピードカメラが捉えた世界初の映像は衝撃的かつ神秘的だ。

放電しながら魚を捕食するデンキウナギ

放電しながら魚を捕食するデンキウナギ

幻の魚たちの大遡上

最初の難関をクリアした撮影チームの次なる課題は、今やブラジルでは幻の現象となりつつある数百万匹の魚たちが一斉に川を遡上するという謎の現象。どこにも確かな情報がないという八方塞がりの状況を打開したのが、リサーチを担当したアマゾンタッチのメンバーの小野田さんと山本さん。熱帯魚の輸出も手がける魚のプロは、こう言う。
「リサーチには実に2年以上をかけました。熱帯魚コネクションをフルに活用して、ブラジル以外の近隣国の現状も調査しました。ブラジルほどの経済発展を遂げていない国であれば、まだ見つかるかもしれないと思ったのです」。そして、ついにアマゾン川の上流部、ペルーでその現象を発見。早速、撮影チームが現地に飛んだ。ところがついこの間まで魚が遡上していた滝で、一斉遡上の兆候はまったく見られない。原因は、数日前から降り始めた季節外れの雨。雨が降ったために魚たちが動きを止めてしまったのだ。無情にも、時間ばかりが過ぎていく。スタッフ全員に諦めのムードが漂っていたロケ最終日。日没まで残り3時間を切った、そのとき……。
― 目の前の滝つぼから魚が飛んだのだ。「!?」 それをきっかけに、次々と魚が飛び始めた。「きたきた、きました!」岡部が叫んだ。「うぉー! きたー!!」中西も雄叫びをあげた。長年待ちに待った、チームのメンバーが思い描いていた、魚たちの一斉大遡上が、全員の目の前で展開され始めたのだ。― (宝島社「アマゾンを撮る男たち」草稿より)
さらに思いがけぬ情報が舞い込んできた。ブラジルでは非常に珍しくなった大規模な魚の遡上が起きているというのだ。産卵場所を目指して何百万という魚たちが一斉に移動するピラセーマと呼ばれる大遡上。魚のサイズも、数もはるかに規模が大きい。現地に直行すると、確かに水面から多くの背びれが突き出し、大量の魚たちが川を遡っている。さらにあちらこちらで、無数の魚たちが一斉に水面から飛び跳ねている。水面を割って、目に飛び込んできたのは鮮やかなピンク色の体。なんと、アマゾンカワイルカが群れで魚を追っている。魚たちは、カワイルカから逃れようと、水面から一斉に飛び出していたのだ。チームの誰もが初めて目にする、圧巻のシーンだった。

4Kカメラは圧巻の大遡上を捉えた

4Kカメラは圧巻の大遡上を捉えた

こうして数々の奇跡のシーンの撮影に成功した取材チームだが、取材を終えた今、改めて、アマゾンの奥深さを実感している。失敗と試行錯誤の繰り返しの中で、大自然の見えざる力が、最後の最後に味方をしてくれたような気がして仕方がないのである。
「誰も見たことのないアマゾン」――しっかりと描き出されているかどうか? ぜひ、番組をご覧ください!

ところで、番組と合わせてお読みいただきたい本があります。4月11日に宝島社から発売される「アマゾンを撮る男たち」には、今回の「大アマゾン」のプロジェクトの一部始終と、ブラジルにおける15年間のNHK・NEP自然番組チームの取り組みの軌跡が、非常に面白く描かれています。興味がありましたらぜひご一読ください。

(制作本部 自然科学番組 エグゼクティブ・プロデューサー 村田真一)


NHKスペシャル『大アマゾン 最後の秘境 第1集 伝説の怪魚と謎の大遡上』NHKスペシャル『大アマゾン 最後の秘境 第1集 伝説の怪魚と謎の大遡上』

2016年4月10日(日) 午後9:00からNHK総合テレビで放送
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160410