2人に1人ががんにかかる時代を考える

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今年で4年目を迎える「フォーラム がんと生きる~こころとからだ 私らしく~」では、がんを医学的に解説するのではなく、当事者の暮らしにどんな支援が必要なのかを、みんなで考えます。開催のたび多くの当事者と話す神(じん)プロデューサーは、「出会った人たちの思いに胸が熱くなる」と語ります。


今や日本人は、生涯で2人に1人が“がん”にかかると言われます。抗がん剤など新薬が次々に誕生し、新たな治療法の開発も進んでいますが、治療を続けるなかで悩まされる副作用や、社会生活を送る上で直面する困難については、まだまだ知られていません。そうした現状を知り、がん告知後の暮らしにどのような支援が必要なのかを考えていくのが、私たちが4年前から開催する「フォーラム がんと生きる~こころとからだ 私らしく~」です。
国の「がん対策推進基本計画(平成24年6月閣議決定)」は、かつて終末期の医療と考えられてきた“緩和ケア”を、がんと診断された時から取り組む課題として位置づけています。がんの治療と緩和ケアを並行して行い、患者や家族の暮らしの質を保つことが大切と考えられているのです。「私らしく生きる」ことをテーマにしたこのフォーラムでも、緩和ケアを通じて患者本人の暮らしや思いを伝えようとしています。フォーラムに参加した患者さんやご家族に少しでも希望を持って帰ってもらいたいからです。フォーラムが4年にわたって続いているのは、こうした私たちの思いに共感してくれる人が少なからずいらっしゃるということではないかと思います。

私たちのフォーラムは、最前線で活躍する医療者が治療法などを解説していくわけではありません。がんと診断され治療を続ける患者、つまり当事者が、医師とともに登壇し対等な立場で自分の置かれている状況を語ります。これによって、どういった治療や支援が必要かを来場者も含めてみんなで考えるのです。それはなぜか?――治療の最前線に立っているのは、医師だけでなく、患者となった人たちだと、私たちは考えるからです。患者さんはがん治療という人生を左右しかねない治療に臨み、その後にあらわれる後遺症や副作用と向き合いながら生きています。がんを抱える不安や、治療のなかで起きる身体的な苦痛は本人にしか分からないため、社会から孤立してしまう人も少なくありません。だからこそ、本人の思いを聞きながら医療や暮らしを考える、それが私たちのフォーラムなのです。

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医療、暮らしの支援に携わる人、そして当事者が登壇するフォーラム

今年度最初のフォーラムは、7月3日(土)に愛媛県松山市で開催します。そこでももちろん、がんを患うご本人に舞台に登壇していただきます。さらに、事前に取材したVTRで治療や日常生活の様子をご紹介します。VTRの取材では、肺がんの手術の後遺症で仕事を辞めた経験をもつ人や、抗がん剤の副作用が辛くて治療を中止した人など、すべて開催地・愛媛県でがんと診断された皆さんにご協力いただきました。

今日はそのうちのお一人をご紹介します。今年36歳になった有田雅也さんです。

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有田雅也さん

20代の頃、地元松山市でアマチュア・ロックバンドのボーカルとして活躍していた有田さんは、去年胃がんと診断され、治療を続けています。がんの進行度は1〜4で表しますが、有田さんの場合は最も進行したステージ4。胃の3分の2をとる手術を行い、その後は抗がん剤治療を続けてきました。しかしその治療の甲斐なく今年5月にはリンパ節への転移がみつかり、「あくまでも統計的な仮定ですが」と主治医に前置きされ、“余命14か月”と告げられたのです。現在は別の抗がん剤による治療をしていますが、結婚し7歳と5歳の子の父親でもある有田さんにとっては、大きな衝撃だったと言います。

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治療を受ける有田さん

“余命14か月”と告げられた有田さんは、治療のかたわら、フォーラムの壇上で語ることを決断してくれました。「俺は目立ちたがり屋だから(笑)」と照れ隠しする有田さんですが、取材を進めるうち私は、彼の本当の思いを知ることになります。それは「もし自分が亡くなった後、自分の子どもたちに何かを残したい」という思いでした。
「父ちゃんがどう生きたのかを伝えたい、がん患者である前に一人の人間として、そして一人の父親として生きた証を残したい」と胸の内を語ってくれました。その思いが、フォーラムで登壇する決断につながったのです。

フォーラムのたびに、こうした出会いがあり、胸が熱くなります。
有田さんは私たちに語ってくれました。告知を受けてから自分ががんであることを忘れた日は一度もないということ、家族の前では泣けないので、夜中に車で山奥まで行って声をあげ泣いたこと、治療後も好転しない状況に焦りを感じ、自暴自棄になる時があること、副作用に悩まされ体が動かない自分を不甲斐ないと嘆くこともあること……。
こうした当事者の思いを乗せて私たちにできることを考える「フォーラム がんと生きる」。私たちは、二人に一人ががんになる時代を、登壇者のみなさん、来場者のみなさんとともに、より暮らしやすくしていけたらと願っています。

(グローバル事業本部 イベント・映像展開 エグゼクティブ・プロデューサー 神悟史)


「フォーラム がんと生きる~こころとからだ 私らしく~」
日時 2016年7月3日(日)午後1時から開催
会場 松山市民会館(愛媛県松山市)
主催 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ 読売新聞社
ホームページ http://www.npwo.or.jp/info/2016/1607ehime_gan.html